今回は、宮部みゆきが描くモンスターパニック作品『荒神』の魅力をお伝えしたいと思います。※荒神は、こうじんと読みます。
宮部みゆきの長編小説『荒神』がNHKでテレビドラマ化されることが発表されました。放送時期は2018年の1月から2月頃とされています。単発で100分の予定となっています。
荒神とは
ベストセラー作家の宮部みゆきの時代小説です。もともとは新聞に連載されていた小説で、2014年にハードカバーで書籍化され、2017年6月には文庫本として出版されています。怪物が大暴れする時代小説ということで話題になりました。
人によって好き嫌いがわかれそうな作品ではありますが、私はおおむね楽しく読めました。
舞台は江戸時代の山間部
江戸時代のお話で、東北地方の深い山間部に位置する、2つの藩が舞台です。この隣り合った2つの藩には、複雑に入り組んだお家事情と因縁が渦巻いています。
2つの藩の人々を中心に、視点が切り替わりながら物語が進んでいくのですが、この作品の最も重要な舞台は、2つの藩の中間に位置する「お山」です。古来より信仰を集めてきたこのお山から、正体不明の怪物が現れる・・・というお話です。
お山から怪物がやって来る・・・。
生々しい怪物の描写
この作品、『荒神』というタイトルのとおり、荒ぶる怪物が登場するのですが、怪物の描写が異様に生々しくてグロテスクです。怪物の息遣い、肌の質感、そういったディテールがこれでもかというほどしっかり描写されています。
詳しく書くとネタバレになってしまうのですが、現実でいうところの爬虫類とか両生類の特徴を持った怪物なので、非常に怖いです。虫唾が走るような、ぞわっとする描写がけっこうあります。
そんな荒ぶる怪物が山間部の村を破壊し、人々を襲って来ます。一方、人間も怪物を倒すために武装して集団で戦うのですが・・・。
圧倒的な強さの怪物の正体とはなんなのか。怪物の正体を想像しながら読んでみると良いでしょう。
謎や伏線が多い
なぜ怪物は人を襲うのか、2つの藩にまたがる因縁とは何なのか、といった謎や伏線が非常に多く、想像力をかきたててくれます。登場人物もかなり多く、スケールの大きな群像劇が楽しめます。
逆に言うと、登場人物が多いので、慣れるまではちょっと混乱するかもしれません。主人公格の登場人物は5人くらいいます。キャラクターが多いので、感情移入できないと読み進めるのがしんどいかもしれません。
こんな人におすすめ!
つぎに挙げるような人は、楽しく『荒神』を読めると思います。
モンスターパニックものが好きな人
ゴジラとかが好きな人は読んでいて楽しいと思います。とりわけ序盤のホラー展開は、秀逸です。ただし、怪物はゴジラほど巨大ではないです。ホラー要素を含んだステルス時代劇ゴジラです。
土着の神秘的なものが好きな人
江戸時代のお話なので、昔の日本の風俗や文化が描かれます。昔話や伝承、呪詛や秘術、田舎に伝わる神秘的な文化風習などが好きな人は楽しく読めると思います。
魔術や奇術(まじない?)、さらには気功術みたいなものもガンガン登場するので、神秘主義を全面に押し出した作品です。
「昔の日本には、こんな化物がいたんだな」そんな想像をしてみるのも面白いかもしれませんね。
『もののけ姫』が好きな人
『もののけ姫』が好きな人はこの物語を受け入れやすいと思います。もののけ姫に登場するタタリ神という存在は、この『荒神』の世界と通底したテーマです。
※『もののけ姫』とは、テーマも時代も作風も異なります。両者は同列に語れる作品ではありませんが、世界観は似ているので、受け入れやすいと思います。
山や自然が好きな人
圧倒的に山が重要な物語です。山から始まり、山に終わる物語です。自然とともに生きてきた日本人ならではの感性が活かされたストーリーになっているのです。
深い山の植物をかき分けながら移動する巨大な怪物の描写は、ある種の荘厳さを感じさせますよ。
山から吹き下ろす風、夜の山の深い闇、おだやかな朝の森、洞窟の静けさ、ジメッとした土の湿り気など、臨場感のある山の描写を楽しみましょう。
賛否が分かれそうな点
ファンタジックな描写
ネタバレになるので詳しくは描きませんが、「え?そういう風に解決しちゃうの?」みたいな、超常的なファンタジックな描写があります。突然の展開でびっくりするかもしれませんが、「そういう世界設定なんだな」と納得すれば問題ないです。
群像劇が疲れるかも
登場人物がかなり多いので、場面が切り替わったときや序盤は混乱するかもしれないです。この小説に限ったことではないですが、読み進んでいけば、人間関係が把握できるようになります。とりあえず読み進めましょう。
テレビドラマに備えて原作を読もう
来年には実写で映像化されます。原作の雰囲気をあらかじめ堪能しておけば、テレビドラマがより楽しく見られることでしょう。ちょうどこれから読書の秋ですし。
秋の夜長に『荒神』おすすめです。
ちなみにハードカバー版の表紙には、本作のシンボルとも言える山が描かれていますよ。