サクラクエストから見えるアニメによる地域振興の可能性

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2017年の4月から9月にかけて『サクラクエスト』というアニメーション作品が放送されました。

『花咲くいろは』『TARITARI』『凪のあすから』『SHIROBAKO』『ハルチカ』などで知られるアニメーション制作会社P.A.WORKS(以下ピーエーワークス)が手がけた作品です。 

短大卒の普通の20歳の女の子が、北陸地方のちいさな自治体『間野山市』の観光協会の国王(観光大使)として1年間、町おこしに挑むという作品なのですが、このアニメ、ただ者じゃありません。

アニメによる地域振興の将来を占う、歴史的な作品と言っていいでしょう。

これまで、地方に密着した作品や取り組みを行ってきたピーエーワークス。サクラクエストのお話に入る前に、まずはピーエーワークスによる地域振興の軌跡を簡単に振り返ってみましょう。

富山県南砺市

ピーエーワークスは、富山県の南砺市(なんとし)に本社を構えるアニメーション制作会社です。

地方に制作現場を持っているアニメーション制作会社は少なくありませんが、とりわけピーエーワークスはしっかりと地方に根づいた会社として、異彩を放っています。

地図を見ていただければ、よくわかりますが、普通の田舎です。すごい田舎です。でも、それが良いんです。

南砺市の景色を活かしたtrue tears

2008年に放送されたピーエーワークス初となる元請けのアニメーション作品『true tears』では、地元の南砺市を舞台に、現実の風景を活かした高精細で美しい背景美術が好評を博しました。

緻密なロケハン、美麗な風景描写、雪国ならではの文化風習、など南砺市に会社を構えているというメリットを徹底的に活かした作品となり、非常に大きな反響を呼びました。

『花咲くいろは』のぼんぼり祭り

2011年の作品『花咲くいろは』では、石川県の湯涌温泉街をモデルとして、旅館で働く女の子たちの青春が描かれました。

この作品、アニメ自体ももちろん面白いのですが、地域振興にも大きく貢献しています。作中で描かれた架空のお祭り『ぼんぼり祭り』を、現実の湯涌温泉で再現するという、ほとんど前例がない取り組みが大成功を収めたのです。

毎年10月に開催されていますが、今年で実に7回目を数えます。山間の小さな温泉街に、毎年1万人以上の観光客が押し寄せる行事になりました。毎年、市長までかけつけるというのですから驚きです。

ぼんぼり祭り

出典:第7回湯涌ぼんぼり祭り点灯式|イベント紹介|湯涌温泉観光協会

ピーエーワークスの完全オリジナルアニメから始まった、ぼんぼり祭り。

これから先、何十年も続いて、地元からも観光客からも愛される祭りとなっていくことでしょう。

 

 

サクラクエストという傑作

さて、前置きが長くなりましたが、本題です。アニメを通じて、地方に密着した取り組みを続けてきたピーエーワークスですが、そんなピーエーワークスの地方アニメの集大成として作られたのが『サクラクエスト』だと思うのです。

サクラクエストのラストシーン

『サクラクエスト』の舞台となる架空の自治体、間野山市もまた南砺市がモデルとなっています。さびれた間野山市(現実の南砺市)の町おこしのために、5人の女の子が頑張るというお話です。

本当に地元のためになる町おこしって何だろう。そんな答えのないテーマに取り組む主人公たちからは元気がもらえます。なかでも最終回はとても感動的です。

間野山の未来はファンにゆだねられた

サクラクエストの最終回である第25話『桜の王国』では、

「これからももっともっとたくさん桜を植えて、間野山を桜でいっぱいの街にしたいと思ってるの」

「何十年何百年かかっても、この先ずっと間野山は桜と一緒にあり続けるんだよ」

「いつかこの5人でそんな景色を見れたら・・・」

と主人公たち5人が、将来に向けて思いをひとつにするシーンがあります。はるか未来、たくさんの桜に囲まれた間野山の光景が浮かび上がってくる演出がとても美しい。

作中の時間で1年間、間野山の町おこしに取り組んできた主人公たち5人は、この後、それぞれ違った道を歩み始めることになります。間野山に残る者、間野山を去る者、それぞれです。感慨深いですよね。

ここで視聴者は、素晴らしい作品だった・・・と余韻に浸ります。

と、まあここまではいい。ここまではいいんだ。

でも、気になりませんか?間野山ってこの後、どうなるんだろう?桜を植えるって言ってたけど、どうなるんだろう?

フィクションのままで終わらせないのがピーエーワークスのズルいところ

そんなモヤモヤした状態の視聴者にまるで救いの手を与えるように、突如として先日、謎のプロジェクト「桜ヶ池クエスト」が公開されたのです。 

池の桜を蘇らせる勇者達求む!

ピーエーワークス制作で今春から放送された、「TVアニメ サクラクエスト」に登場する「桜池」のモデル、 富山県南砺市の「桜ヶ池」は今から約35年前に池の周囲と付近に、地元の人たちの手によって約1000本の桜の木を植えた事から、 その後大きく育ち、春になると多くのお花見のお客様がいらっしゃる桜の名所となりました。

 

ただ、最近はその桜も長い間に枯れた木や、痛んだ木が目立つ様になってきています。
現在、その桜ヶ池の桜を地元の皆さんが整備して蘇らせる活動を初めていらっしゃいます。

 

今回、弊社制作の「アニメサクラクエスト」のロケーションモデルともさせていただき、 また南砺市と間野山市との姉妹都市の締結をきっかけに、地元のみなさんとも連携しサクラクエストのファンの みなさんと共に、整備や育成の応援をさせていただければと思います。 その名前を「サクラクエスト」にちなんで「桜ヶ池クエスト」とさせていただきました。 サクラクエストの最終回に、主人公達5人が桜の木を植えて「5人の勇者達」の立札の前で桜の王国を目指すシーンがありますが、 同じ様に、実際の「桜ヶ池」でも作品ファンのみなさんや地元の皆さんなど「たくさんの勇者達」のご協力をいただき、 何年か後にはまた毎年満開の桜が咲き続ける地、作品中で語られる「桜の王国」にしていければと願っています。

 

詳細は、今後作品公式サイトや弊社サイト等で発表して参ります。
その際は「たくさんの勇者達」のご協力をお待ちしております。

新着情報 - NEWS | 株式会社ピーエーワークス 公式サイト - P.A.WORKS Co.,Ltd. Web Siteより引用

地元の方と協力して、桜ヶ池の桜を蘇らせる。素晴らしい取り組みですよね。というか、ズルいんだよなあ。作品のラストが綺麗に現実世界とリンクしています。

アニメ『サクラクエスト』で描かれた間野山市のラストは、実は現実世界の南砺市へと繋がっていたのです。

ファンを上手に、南砺市に誘導していることがわかりますよね。こういう企画があると、なんだか南砺市に行ってみたくなりませんか?桜を植えてみたくなりませんか?

だってアニメのテーマとぴったり一致しているんですから。ファンなら絶対参加したくなりますよね、コレ。

ピーエーワークスは、そういうところが上手なんですよね。

サクラクエストに出てくる桜池

 出典:間野山観光協会


北海道大学の山村高淑教授によれば、コンテンツツーリズムで成功するためには、次のようなことを意識することが大切だそうです。

遊びごころを持ってコンテンツを共有した者同士(ファン・地域・製作者)が互いに配慮し、単なるビジネスとは異なる姿勢をとること。そして何より、これらの人々の間に、顔の見える信頼関係を築くこと。

『アニメ・マンガで地域振興』2011年(東京法令出版株式会社)より引用

今回の取り組みは、こういった要素をしっかりと取り入れていますよね。

今後、南砺市に縁もゆかりもなかった人間が『サクラクエスト』のファンとして、続々と南砺市にやって来ることになるでしょう。

そこで、桜というコンテンツを仲介にして、地元の人々とファンが有機的につながることができれば、理想的な町おこしと言えますよね。

アニメによる町おこしは一過性のものであると言われがちですが・・・。桜の植樹をテーマにした今回の取り組みは、数年から十数年という息の長い取り組みですから、サクラクエストの場合、ムーブメントが一過性で終わってしまう心配はないでしょう。

『花咲くいろは』で現実のものとなったぼんぼり祭りが7年も続いているように、『桜ヶ池クエスト』もずっと続いていくといいですね。

まとめ

徹底した地元愛を貫くピーエーワークスの姿勢には、驚かされます。

山村教授は、らき☆すたで地域振興を実現した鷲宮町を例に挙げて、次のように語っています。

この鷲宮町の事例が教えてくれることは、「ある場所に付与されたコンテンツに対する敬意と愛情は、コンテンツが共有されていく過程において、その土地に対する愛着をも生み出す」可能性があるという点である。地域住民にとっては地域の良さの再発見、土地に対する誇りの獲得と言っても良い。こうしてコンテンツは単なる敬愛の対象としてだけではなく、社会性・公益性を持つに至り、具体的なまちづくりへの展開が可能となる。

『アニメ・マンガで地域振興』2011年(東京法令出版株式会社)より引用

アニメというコンテンツは、その舞台となった地域へも良い影響を与えます。 サクラクエストというコンテンツを基点として、南砺市はさらに力強く発展していくことでしょう。

地域振興や町づくりにはいろいろな手法や手段が存在しますが、そうした地域振興の手段のうちのひとつとして、アニメーション作品は近年、とても大きな存在感を放つようになりました。

十数年後には、サクラクエストは「アニメと地域振興」の代表的な成功例・モデルケースの作品になっているかも?多くのファンが南砺市の町おこしに集まることを期待しています。

桜ヶ池クエストは、2018年春から始動予定です。ちなみに作中のラストシーンも2018年の春でしたよね。

いつの日か間野山に桜が咲き誇ることを楽しみに、また明日から頑張ろうと思いました。