2018年の1月、PS4で『モンスターハンターワールド』が発売された。発売から2ヶ月弱。もう遊び尽くして飽きてしまった人もいるかもしれない。
わたしはゆっくりと遊んでいるので、まだディアブロスと戦っている。もう旬は過ぎてしまったかもしれないが、今日はモンハンワールドについて、わたしが感じたことをちょっと語りたいと思う。
わたし自身、モンスターハンターをプレイしたのはPSP以来である。
実に10年ぶりくらいのモンハンなのだが、「ああ、わたしが遊びたかったモンハンはコレだったんだな」と、純粋に思わせてくれるくらい、モンハンワールドは力のある作品だと思う。
具体的に何が良かったかと言うと、徹底的に作り込まれた広大な箱庭、これに尽きる。
広大で奥深い、リアルな箱庭を走り回る。無印が発売されてから14年の時を経て、ついにモンスターハンターは、本当のモンスターハンターになった。
モンスター同士の縄張り争い、モンスターたちが残す痕跡、フィールドに現れる環境生物、世界を形作る重厚なメインストーリー、膨大なフレーバーテキスト。とにかく世界観の構築が抜群にうまい。アクション以外のシステム面に、かなりこだわって作ったことがよくわかる。
もはやモンハンは、単にでかいモンスターを狩るだけのゲームではなくなった。
世界にはいろいろな花が咲いており、確かに風が吹いており、天気は次々と移り変わる。雲はゆるやかに流れ、夕方には極彩色の黄昏が見える。ときには雨も降るし、夜になれば天空には星が瞬いて観える。生きている世界がそこにある。匂いさえ漂ってきそうだ。
これまでのシリーズでは、やや無機質だったモンハンの世界観が、今作ではグッと生命感に満ちたものに仕上がっている。すべてのオブジェクトに意味があり、すべてのオブジェクトが世界の一部としてそこに在り、機能している。
世界のなかで生きている。自然のなかで生きている。草木をかきわけ、泥にまみれ、モンスターを探して、うっそうと樹木が茂る森の奥地に一歩一歩向かっていく。この没入感がとても心地良い。
今日はそんなモンスターハンターのお話。
古代樹の森
まずわたしが感銘を受けたのが、最初のステージ『古代樹の森』である。シリーズで言うところの、いわゆる『森丘』に当たる。
植物が密生する、奥深い森林のステージなのだが、これが非常に良かった。
いまだに迷うマップ
コケが生えたせまい道。巨大な古代樹。道すがらに連なる倒木。繁茂する草木。地面から見え隠れする木の根っこ。高低差のある足場。虫や小動物もちゃんと生息しており、ぬるぬると動いている。フィールドを流れる小川は、森の奥の滝から始まって、最終的にはマップの端の海岸まで流れていく。
薄暗く、ジメッとした密林チックな雰囲気が、見事に描き出されている。平地、岩場、洞窟、浜辺、樹上、砂地、などフィールド内の景色がバリエーションに富んでいるので、歩いているだけですごく楽しい。しかもフィールド全体が階層に分かれており、立体的な構造をしている。これもまた面白い。
こんなに素敵な箱庭を自由に歩き回れる、その事実だけで満足感がすごい。リビングにプライベートジャングルを手に入れたようなものだ。
フィールドの構造が広大かつ複雑なので、いまだに迷うこともあるし、地図もなかなか憶えられない。でも、それがいいのだ。本作では、モンスターの徘徊するルートなどもかなりバリエーションに富んでいるので、同じクエストであっても、狩りの内容が大きく異なる。
いつまでも新鮮な気持ちでクエストに臨める。なんともお得ではないか。
おそらく『古代樹の森』は、スタッフがものすごい熱量で作り込んだのだろう。他のステージと比べても、明らかに手が込んでいる。
堤を決壊させて土石流でリオレイアを押し流したり、植物のツタにハメたりと、いろいろなギミックが用意されているのも本作の特徴である。こういったギミックもまた箱庭に彩りを与えている。
森ならではの環境を利用して戦うというライヴ感が、まさに狩人っぽくて実に気持ちがいい。
茂みに隠れるということ
こういった狩人っぽい要素のなかで、シンプルながらも、わたしが感動したのが茂みでしゃがむと『隠れる』ことが出来るという要素である。わたしの記憶が正しければ、これまでのシリーズでは茂みに隠れるというアクションは出来なかったはずである。
この何気ないアクションの実装は重要だと思う。
茂みのなかに隠れると、敵をやり過ごしたり、態勢を整えることが出来る。
『隠れる』というアクションは非常に狩人っぽい。とてもリアルだ。ここにハンターライフのアクチュアリティが見て取れる。
これまでのシリーズならばプレイヤーが草むらに身を置いても、モンスターはお構いなしに攻撃してきた。だが、モンハンワールドは違う。隠れるという何気ないアクションこそ、重厚な世界観の構築に大きく貢献しているといっても過言ではない。
ただし、モンスターはにおいを嗅ぎつけるので、ずっと隠れ続けることはできない。このあたりの調整は見事だ。
茂みに隠れながらモンスターを観察するのも面白い。気分は生態調査員。
生態系と世界設定
このように、これまでのシリーズと比べると、本作はプレイヤーが置かれた自然環境のなかで戦っているという感じが強く打ち出されている。
それはモンスターも同じ。これまでのシリーズだと、フィールドが細かくエリアに分かれていたので、エリアをまたいだ移動の際はロードが発生していた。フィールドはぶつ切りだったのである。
しかし、本作では、シームレスにフィールド内を移動することができる。つまり、フィールド全体がひとつのマクロな生態系として存在している。
本作の開発にあたり、スタッフはモンスターの分布図やピラミッド型の生態構造図を作ったそうだ。
草食モンスターの分布、そこにやって来る肉食モンスター、さらに縄張り争いにやってくる別の肉食モンスターなど、テリトリーや群れといった詳細な生態系が構築されているため、なぜフィールドのその場所にそのモンスターがいるのかということに説得力がある。
普通のアクションゲームとして遊ぶだけなら、そんなこと細かいことを気にする必要はないのだが、こういった緻密なこだわりが本作の完成度を高めていることは間違いない。
インタビューでもスタッフは下記のとおり、語っている。
――「MHW」において、生態系はどのように構築されたのでしょうか?
藤岡氏:ベースはやっぱり、「モンスターハンター」という世界の中にいるモンスター達をどう描くかというところになるんですが、僕たちがモンスターを設計するときには、そのモンスターがどういう理屈でそれぞれ個性的な部分を持っているのか、ということや、何を食べて生きているのか、というところからその動きが見えてきたりとか、モンスターをデザインするときはそういった根拠に強くこだわっているんです。
しかし、それを1つのフィールドの中で表現しようとすると、モンスターの食性とフィールドの植生の辻褄をあわせていかないと、モンスターがどう生息しているのかということがなかなか決められないんですね。なので、最初の時はそういった調整を重点的に行ないました。この辺りには海があって、この辺りには木があって森があって、じゃあこういう所は湿度が高いよね、とか、じゃあ湿度が高いところはこういう植生かな、とか。より鬱蒼としたところにはこういう植物が生えるからこういう生き物がいるよね、というところを決めていきました。
徳田氏:そこになにが生えているのかということもそうですが、どんなものが生態系の1番下にいて、モンスターは何を食べて暮らしているんだということを大事にしています。例えば「古代樹の森」だと草とか木の実などがそれに当たりますし、「陸珊瑚の台地」では「陸珊瑚」という陸生の珊瑚が産卵して、それがエネルギーの元になっていたり、という感じですね。特殊な生態を作ろうとするときはピラミッドの1番下の土台から考えて作っていきました
藤岡氏:そこから紐づくように小型のモンスターがそれを食べて、さらにそれより強いモンスターがそれを捕食して、というようにピラミッドを作って、生物としての強さとゲーム的な強さを照らし合わせながら作っていったので、そういう意味ではマップの中の生態系というのはかなりこだわって設定をしています。
世界感に説得力と奥行きを持たせるために、アクション面ではないところにこれだけ注力しているのは、本当にすごいと思う。スタッフも、モンハンシリーズが始まって以来、ようやくやってみたかったことが実現できて喜んでいるに違いない。
フィールドの構造にはひとつひとつ意味があり、モンスターの分布にも意味がある。今作では、フィールドは移動するだけの場所ではない。
ちょうどオペラの舞台装置のように思われる。オペラは、歌手、舞台、衣装、小道具などあらゆる要素を包含する総合芸術である。もはやモンハンワールドも総合芸術。
新大陸という舞台
本作は、今までのシリーズとは異なる大陸が舞台という設定である。新大陸には、『古代樹の森』『大蟻塚の荒地』『陸珊瑚の台地』『瘴気の谷』といったステージが用意されているのだが、特筆すべきは、それぞれのステージのつながりである。
ゲームのシステムとしては、それぞれのステージは独立しているため、厳密にはつながっているわけではない。ただ、それぞれのマップが「地続きである」ということは、強く意識されているように思う。
具体的には『古代樹の森』の豊かな水源から流れ込んだ水が、『大蟻塚の荒地』の湿地帯を作り出しているといったこと、『陸珊瑚の台地』から落ちたモンスターの死骸が『瘴気の谷』に影響を及ぼしていること、などが挙げられる。これらはゲームを進める上では、べつに知る必要はないフレーバーテキストの一種だ。
しかし、こうした世界の地続き感は、わたしたちプレイヤーの没入感をより深いものにしている。なにしろ本作では、プレイヤーは新大陸探検隊の一員なのだ。
未開の新大陸を少しずつ切り開いて、探検していく。そんなシナリオをじんわりと体験させるゲームデザインがとても心地よい。
地続きであることを意識させるため、本作では、雪山、凍土、火山地帯といった極端な環境変化を感じさせるマップが無い。(今後追加される可能性はあるが)
あくまで世界は地続き。フィールドごとの関係性をしっかりと考えて作っているのが好印象である。
また、未開感を演出するための景観の作り方も上手だ。古代樹、巨大な蟻塚、陸に群生する珊瑚など、ちょっと変わったランドマークがフィールドを彩っている。
巨大な何かが通ってできたような峡谷など、それぞれのフィールドには、奥深い設定が詰め込まれており、わたしたちの想像力を刺激する。フィールドには由来と歴史があるのだ。
広い世界が待っている
ひとつのジャングル、ひとつの自然環境、ひとつの生態系がそこにアリアリと再現されている。徹底的に作り込まれた生態系と箱庭。わたしは、これがたまらなく楽しい。どこまでも探検したくなる、どんどん奥に進んで行きたくなる。
森の最奥部には、強大なモンスターが控えているし、日当たりのいい場所では大型の竜が日向ぼっこをしたりしている。
ちょうど小学生の頃、裏山でかくれんぼをして遊んでいたときのような、そういう高揚感がこのゲームの中には確かにある。夏休みの一日のような、そんなワクワクした気持ちを思い出さずにはいられない。
我が家のリビングのテレビに、広大な新大陸が現れてから、わたしの心はずっと少年時代。もうしばらく寝不足の日々が続きそうだ。
どこまでも広い世界が広がっていた少年時代の夏休みをもう一度。アステラで会いましょう。
※記事を書くにあたって『電撃PlayStation』(Vol652〜655)の開発者インタビューを閲覧した。より詳細なゲームのこだわりを知りたい方は、ぜひチェックしてほしい。