ムンク展に行ってきた「疲れた日本人とムンクのこと」

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ムンク展に行ってきました。場所は東京都美術館。

東京都美術館ムンク展

大人は当日券1600円。
音声ガイドは550円。イヤホンを装着して、作品に対応したムンクのエピソードを聞くことができます。

詳細は公式サイトでチェック!

【公式】ムンク展ー共鳴する魂の叫び

行ったのは、11月2日(金)の午後。15:30くらいに入場して、出てきたのが17:10くらい。急いで巡ることができれば1時間もかからないくらい、だと思います。

混雑状況は公式ツイッターで随時配信されています。必ずチェックしてから行きましょう。

twitter.com



ぼくは音声ガイドを聴きながらだったので、ちょっと時間がかかったのですが、それを差し置いても、高速で作品を巡るというのは物理的にちょっとしんどいと思います。なぜなら、とにかく人が多いから。土日はそうとう混雑すると思います。

ムンク展

入場まではスムーズでしたが、展示会場に入ると、とたんに人の流れが滞ります。約100点もの作品が並んでいるのですが、人ごみがうっとうしいので、なかなか思うように進めない。みんなゆっくり鑑賞したいので、歩みが遅くなるんですよね。ノロノロと亀のように進みながら、作品を眺める感じ。

しかも解説文もあるので、さらに人が立ち止まるわけです。満員電車ほどギュウギュウではないですけれど、人気作品のところにはたくさんの人が群がるので、ひょいひょいと作品を鑑賞して回るっていうのは難しいですね。あと、会場が立体的なので、エスカレーターで上へ下へと、結構歩きます。休憩できるベンチなどもあります。

まあ、ほとんど美術館に行ったことがないので、素人目線の肌感覚はそんなところです。 時間には余裕を持って、ゆるりと行きましょう。もちろん荷物預けるロッカーもあるから。

ちなみに、となりの美術館でやっていたフェルメール展は入場だけで30分待ち(看板にそう書いてあった)だったので、それに比べるとムンク展は、だいぶ快適だと思います。

みんな大好き、「お土産・グッズコーナー」は、展覧会場の最後のコーナーにあるので、入場しないとたどり着くこともできません。限定品は、ここで買っておきましょう。マグカップとか、シャツとか、クリアファイルとか、かなり充実していました。記念になるよ。

フルカラーの重厚なカタログが2400円で売っていて、すごい欲しかったんですけど、どうせ買っても読まねえだろうなと思って買いませんでした。ただし、限定グッズはこの場でしか買えないので、欲しい人は忘れずに。退場すると戻れません。 

あと、ポケモンのぬいぐるみ(叫び顔のピカチュウとかが売られている)とコラボしているんですが、全部売り切れでした。公式ツイッターで、随時チッェクしましょう。ぬいぐるみを高値で転売している不届きな輩がいるようです。まったく、人の心の荒むこと麻のごとしだな。

まあ、前置きはそんな感じです。続いて、なぜわたしが急に、思い立って、わざわざムンク展に、上野まで行こうと思ったのか、それを書いていきたいと思います。

ムンクについて簡単に説明

ウィキペディアをざっくりと読んだので、ムンクの紹介を簡単にしときましょう。ムンクは、1863年~1944年という激動の時代を生きた画家です。ノルウェーのひとです。ノルウェーのいいところの一族に生まれて、80歳のおじいちゃんになるまで生きました。大往生だよ。

それで、ムンクのなにがすごいかっていうと、とっても前衛的なんですよ。悩みとか苦しみとかいうような、人間の内面を絵画に描いたという業績がすごいんです。これがすごい。西洋美術史で、こういうタイプの絵画はムンクの頃までは、存在しなかったわけですよ。

ルネサンスとか、バロックとか、写実主義とか、印象派とか、いっぱいあって、出てきたのが、ムンク。

ムンクみたいな絵を表現主義とか象徴主義っていうらしい(詳しいことはわからない)ですが、これがすごいわけよ。これを初めてやったっていうのがすごい。

詳しくはここを読むとわかる。https://infortisia.com/arthistory/

新しい潮流として、ムンクが出てきたんですよ。それがすごいわけ。だから、エヴァなんだよ、ムンクは。『ザンボット』とか『コンバトラーV』とか、いろんな流れがあって『エヴァ』が出てくるわけよ。男女の恋愛模様で世界改変されまくり、クローン人間大量出現、逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ、みたいなそういう感じなんだよ。

目に見えたものを綺麗に美しく描いたりするだけじゃなくて、もっと人間の精神性を描くぞ! みたいなそういうのがムンクだったというわけです。

現代人とムンク

病気とか親族の死とか、いろんな悲しい事件を幼い頃から体験してきたムンク。だから、ムンクの作品は、なんとなく暗い作品が多い。そういうテーマは普遍性があるから、現代人が鑑賞しても、共感できる部分があるんだと思います。

具体的にいうと、まあ、メンタル病んでる人とかね、仕事で疲れている人とか、恋愛に疲れちゃった人とか。そういう悩める現代人の心にぞわわっと響いたりするから、ムンクの作品はすごく現代日本人に向いていると思う。

例えばね、仕事で疲れてしまって、もう無理だ、仕事やめたい、辛い。そういうときにムンクの作品を観てみるといいかもしれない。直接的な解決にはならないと思うけれど、なんか共感できてホッとできる作品があると思う。ムンクの絵に不安な気持ちを仮託して、外部化できるかもしれない。

まあ、そういうこともあって、ムンクの絵を通じて、何かを感じ取れるかもしれないと思ったのだ。

叫びを見たかった

そして、やっぱり『叫び』が来るから。わざわざノルウェーから海を渡って来たんだよ。絶対観たいじゃないですか。で、この作品のエピソードで、ぼくが非常に好きなエピソードがあるんです。

叫び

まあ、ほとんどの人は知ってると思うんだけど、この絵のなかのドクロみたいな人物が叫んでるわけじゃなくて、この人物はただ耳をふさいでるだけなのです。では、なぜ耳を塞いでるかって言うと、周りの自然環境が叫んでるから、らしいんですね。これは有名な話。だから叫び。

このことについて、ムンクは次のように語っているんです。ぼくは、このエピソードがすごく好きなんですよ。以下、Wikipediaから引用。

I was walking along the road with two friends – the sun was setting – suddenly the sky turned blood red – I paused, feeling exhausted, and leaned on the fence – there was blood and tongues of fire above the blue-black fjord and the city – my friends walked on, and I stood there trembling with anxiety – and I sensed an infinite scream passing through nature.

これは英語なんですけど、わたしの語学力で以って和訳しますよ。こうなるわけよ。

ふたりの友人と道を歩いていた。太陽は沈んでいるところだった。突然、空が血のような赤色に変わった。ぼくは立ち止まって、疲れたので、フェンスに寄りかかった。青と黒のフィヨルドと街の上の空が、ちょうど炎の舌のような感じになっていた。友人たちは歩いて行ったが、ぼくは不安と戦っていた。自然を貫く叫びを聞いた(ように感じた)。

好きなのは「自然を貫く叫びを聞いた」というところ。

ここですよ。この一節。ムンクは自然を貫く叫びを聞いたんです。無限の叫びが自然を、大地を貫いて、響き渡ったんですよ。この表現がすごい。それを絵にしちゃったもんだから、空はぐにゃぐにゃしているし、血のように赤い。

この一節は、なにかの雑誌の連載コーナーで読んでから、ずっと記憶に残っていた。そしたら、本物の『叫び』が日本に来るってんで、それですぐ観に行こうって決めたのです。

ぼくは叫びを聞いたことがある

なにをバカなことを言ってるんだと思う方もいらっしゃるかと思うのですが、ぼくは、「自然を貫く叫び」を聞いたことがあるんです。どこだったかな。でも夕方だったことは間違いない。詳しい場所や状況、それはわからない。でも、確かにぼくは、叫びを聞いたことがある。

耳鳴りとかね、幻聴じゃないんだ。それはもう、自然を貫く叫びとしか言いようがない。形容しようがない。もう自然を貫く叫びだよ。それはもう、まごうことなき叫びだったね。だから、この一文を初めて読んだとき、ぼくはムンクってすげえって思いましたよ。

叫びは、誰でもみんな聞いたことがあると思うんですよ。思い返してごらんなさい。空が血のように染まる夕暮れの日、大きな叫びが周囲を貫いて、響き渡ったことがありませんか。響き渡らなくてもいい。自分にだけ聞こえていてもいい。

まだそういう経験がない人は、多分、これからいつか聞けると思う。できるだけ夕方になったら、外に出て散歩してください。山や海に行くといいかもしれない。もし、あなたが中・高校生なら、夕方の校舎のなかでも聞けるかもしれない。

そしたら、突然、空が血のように染まって、叫びが貫くから。それは一瞬のことですよ。でも、ほとんどの人は、すでに経験してると思う。聞いたことあるよね? 

自分の胸に聞いてみなさい。あのときの体験は、自然を貫く叫びだったのかなと思ったら、それがあなたが聞いた叫びなんです。

まあそんなことはどうでもいい。

ムンク展の見どころ

ムンクは『叫び』が有名だけど、他にもたくさんの作品があり、ムンク展には約100点の作品が展示されています。まあ、100点もあるといっても、小さな作品やよくわからん作品も含めてなので、お含みおきください。

ムンクは80歳で亡くなるまで、結構、人生に浮き沈みがあるので、それが面白いですよ。人生の後半になると、わりと明るい絵が増えていく・・・みたいな。最晩年は、たくさんの自画像やイヌの絵を描いたりしています。ぜひ、展覧会で観てください。

これが良かったっていうのを紹介します。

叫び

『叫び』
いくつか種類があるうちのひとつが日本に来ています。展示コースの中盤に登場する暗い部屋で観られます。ここはすさまじい込み具合でした。現物と正対すると、まあ、こんなもんかな・・・? って感じがしてしまって、通り過ぎちゃった。でも、せっかくだからもう一回観ようと思って、部屋に戻ってくるというミーハー人間を演じてしまいました。

なんか自然を貫く叫びというか、案内整理する警備員と東京都民の雑踏ばかりが聞こえましたね。「立ち止まらないで下さーい」「こちらなら立ち止まってゆっくり観られまーす」

いわゆる、ムンクの『叫び』(のなかのひとつのバージョン)ですから、ちゃんと観ておきましょう。自慢できますよ。今観ておかないと後悔するよ。まあ、ノルウェーに行けば観れるのですが、多分行かないよね。

 

接吻
『接吻』

男女の顔はもう、ドロドロになるくらい抽象化されています。接吻、というモチーフの作品がいくつもあって、これが個人的にはすごく良かったかな。だれもいないアパートの空間に男女ふたり、そこでは物音ひとつしない。カーテンは締め切ってあるんだけど、ちょっとだけ開いている。この絵を観るとなんか、いろいろ切ないことを思い出したりして、ほろりと涙が出ました。なんなんでしょうね。大きな絵だから、やっぱり感動しましたよ。非常に良かった。

人を愛するということは、個人の喪失である。溶け合って、一緒になるんです。

星月夜

『星月夜』

これなんかは、明るく、静謐な感じのする作品です。「夜の田んぼの景色かあ、ノルウェーにも綺麗な水田があるんだなあ」なんて思ってたら、これは積もった雪に星の光が降り注いでいるという絵だった。

 

太陽

『太陽』

この絵は、実物も大きくて、とても力強い印象を与えます。『叫び』の陰鬱とした雰囲気はどこにもない。やはり芸術は爆発だった。

あざやかな色使い。観ていて元気になれそうでしょう。こういう明るい作品もたくさんあるんですよ


ほかには『マドンナ』『夏の夜、人魚』『吸血鬼』とか、諸事情で画像を載せられませんが、ぜひ現物をご覧になってください。吸血鬼は良かったなあ。

あと、ノルウェーの美術館長によると、『生命のダンス』という作品が、おすすめらしいです。要チェック。

ムンクも相当悩んでいたと思う

ムンク展は、ひとりの画家の人生を追うようなものです。年代によって作風に変化があるので、ああ、この頃は病んでたのかな、なんて想像してみるといいと思います。

ムンクは、芸術の邪魔になるから結婚しなかったそうなんですけど、女性関係はかなり豊富だったんですよ。4人くらい恋人的な人がいたんですよ。まじでくそですよね。いい加減しろよムンク。さらに年をとって田舎に拠点を構えてからは、若い女性とかを呼んでモデルで描いていたらしいです。まだから、どうにもならない人妻との関係とかね、性愛とか絶望とか、そういういろんな要素が想像できるんですよ。

絵を観ていくと。男女が溶け合うようにキスしていたりね。ほんとにすごいよ。卓抜した表現力とインスピレーションの持ち主だよ。というか、ガチで絵がうまい。

なんか現代人みたいじゃないですか。浮気されたとか、新しく好きな人ができたからもう別れようとか。好きだけど結婚は無理、とか。もう、ムンクのそういうこざかしいところが見て取れるんだよ、絵の端々から。なんなんだこいつ。まじで腹立つな。

でも、そういう性愛とかだけじゃなくて、ムンクは、お父さんとかお姉さん、弟さんとか、かなり病気とかで死別しているんですよね。だからそういうのをずっと引きずって生きてたのかなあなんて思ったりもする。音声ガイドをつけると、けっこう詳しく教えてくれますよ。

ムンクの生い立ちとか急に言われても、誰も興味ないと思うんですね。でも、並んだ絵を観てると、ああ、この人の人生はドロドロしてたんだなあって思うよ。イキイキしてる時期もあるし。ひとりの人間、ムンクさんの息遣いを感じられた展覧会でした。おすすめ。 

ホモ=ファーベルのすすめ

ぼくは最近気づいたのですが、絵でもブログでもなんでもいいので、やっぱりアウトプットするっていうのはすごく大事なことだなと思います。何かを作る、何かを生み出すという過程は、すごく人間的だなと思うのです。

フランスの哲学者にベルグソンという人がいるのですが、彼は、人間を「ホモ=ファーベル」(工作人)という言葉で表現しました。すなわち、人間の本質は何かを作り出す、創造活動にあるのだと。

だから、文章を描いたり、絵を描いたり、陶芸したり、小説を書いたり、音楽を作ったり、そういう営みが人間の生活を豊かにするのではないかと思うのです。ムンクの一生は辛い時期もありましたが、充実していたはずです。

なので、叫びを描いてみました

叫び

『2018年の叫び』

次の更新はいつになるかな。