P.A.WORKSのお仕事シリーズとは【社会人におすすめのアニメ】

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P.A.WORKSの『お仕事シリーズ』を知っていますか?

別名『働く女の子シリーズ』とも呼ばれ、その名前のとおり女の子たちが仕事を通して成長していくアニメーション作品なのですが、これが面白い。

2017年9月現在までで、合計で3本の作品がこのシリーズに該当します。まず、簡単に3本の作品の紹介をしましょう。

1.『花咲くいろは』
お仕事シリーズの第1弾は、2011年4月から9月まで放送された『花咲くいろは』という作品です。金沢の架空の温泉街を舞台にして、老舗の旅館に住み込みで働く3人の女子高校生の成長を描く青春物語です。

ほかの二つの作品と比べると、登場するキャラクターが若いので、青春ストーリーがお好きな方におすすめ。キャラクターが抜群にかわいいのもポイントです。

2.『SHIROBAKO』
お仕事シリーズの第2弾は、2014年10月から2015年の3月まで放送された『SHIROBAKO』という作品です。東京のアニメーションスタジオを舞台にして、制作進行、アニメーター、脚本家(志望)、声優、3DCGクリエイターの5人の女性にスポットを当てた群像劇です。

完成度は3作品のなかで一番高いでしょう。誰にでもおすすめできる作品です。

3.『サクラクエスト』
そして、お仕事シリーズの第3弾は、2017年4月から9月まで放送された『サクラクエスト』という作品です。富山県の架空の自治体である間野山市を舞台に、町おこしに奮闘する5人の女性にスポット当てたお話です。

ちょっとクセがあって地味なテーマだけれど、一番心が温まる作品だと思います。わたしはサクラクエストが一番好きです。


「働くこと」や「生きること」について葛藤しながら成長していくキャラクターの姿。それこそが、お仕事シリーズの最大の魅力です。

ひたむきに日々を生きるキャラクターの姿が多くの視聴者の共感を呼んでいるようです。
※アニメーション作品というより、ストーリーの展開はNHKの連続テレビ小説に近いかも?

今回は、そんなP.A.WORKSのお仕事シリーズの3作品を順番に紹介していきたいと思います。

花咲くいろは

2011年4月から9月まで放送されました。全26話。後に劇場版も公開されました。

突然、母、皐月(さつき)から「夜逃げをすることになった」と伝えられた松前緒花(まつまえ・おはな)。母親から手渡されたのは“喜翆荘”(きっすいそう)という名と、電話番号が書かれた一枚の紙切れだけ。住み慣れた街、母親、そしてクラスメイトの種村孝一(たねむら・こういち)に別れを告げ、まだ出会ったことのない祖母がいる街で暮らすことになった緒花は、海岸線を走る列車からの景色を見ながら、これから始まる新たな生活に思いをはせるのだった。

「TVシリーズ 花咲くいろは」公式サイトより引用

東京で普通の高校生やっていた主人公の緒花が、田舎の旅館で働くお話です。

松前緒花

出典:「TVシリーズ 花咲くいろは」公式サイト

主人公の緒花は、ひょんな事情から祖母が経営する老舗旅館「喜翆荘」で住み込みの中居さんとして働くこととなってしまうのですが、そこで出会ったのは、同じく「喜翆荘」で働いている同世代の2人のアルバイトの女の子たち。

花咲くいろは

出典:amazon商品ページ
3人の女の子の青春群像劇です。高校生ならではの甘酸っぱい恋愛模様あり、青春の涙あり、そしてなにより働くことについてスポットを当てた名作であります。

働くこととは?

中居として働く緒花の葛藤がとてもリアルです。本当は仕事をしたくないのに、なぜか旅館で働くことになってしまった女子高校生の日常。派手さはありませんが、誰もが共感できる悩みが描かれています。

積極的に働こうとすれば手際が悪いと叱られて、よかれと思ってやったことが結果として周りに迷惑をかけてしまう。

働いていると、よくある悩みですよね。どんな姿勢で旅館の仕事に向き合うべきなのか。悩める主人公、緒花の葛藤が面白い。

「なんでこんなに嫌われてんだろう。ただ仕事覚えたいだけなのに」
「率先して仕事をしようとするのは結構だがね。言っただろう。無駄なやる気はじゃまになるだけだ」

「本当はわたし何をしたいんだろう」


「お客様、お客様ってそれ以外ないんですか?」
「それがこの仕事なんだよ」

生き方を考える

旅館で働くアルバイトの3人だけでなく、旅館のその他の従業員たち、ライバル旅館の女の子など、非常に多くのキャラクターが登場します。


それぞれのキャラクターが、自身の生き方・働き方について、みんな悩みを持っています。たとえば、喜翆荘で働く中居の輪島巴(わじまともえ)というキャラクターがいるのですが、彼女の人生にスポットを当てた回も存在します。

輪島巴

出典:輪島巴|アニメ「花咲くいろは」公式サイト


地元の同世代の友人がどんどん結婚していくなかで、あせりを感じる巴。

「結婚を考えたとき、旅館でずっと働き続けるべきなのか?」
「毎日毎日同じことの繰り返し」
「実家に帰ろうかな」

社会人がぶち当たるリアルな悩みが、これでもかというくらい詰め込まれています。

若々しい青春劇としても楽しめますし、社会人が自身のキャリアについて改めて考えるきっかけをくれるアニメーション作品にもなっています。

物語の後半では旅館の経営についてスポットが当てられていくので、アニメ作品ではありますが、シビアな旅館業の現場についてちょっと触れることにもなっていきます。

経営のためにどんどん新しいことを取り入れていくべきなのか、現状維持でいいのか。最終的に老舗旅館の喜翆荘の経営はどうなるのか。ぜひ最後まで見てほしい作品です。

そういう意味では、社会人になる前と社会人になった後とでは、すこし違った見え方ができる作品です。仕事のことも恋のこともちゃんと自分で考える。働いていくって難しいことですよねぇ。

第6話ではじめてお給料をもらった緒花が「働くっていいね」というシーンは、おもわず胸に迫るものがありますよ(笑)

美しい描写

P.A.WORKSの誇る圧倒的な映像美も見どころのひとつです。岸田メル氏のデザインによるキャラクターも魅力的ですが、なによりも風景描写や空気感の表現が異様に美しいものとなっています。

舞台となるのは石川県の架空の温泉街で、山や海、鉄道の表現、光の表現など、美しい自然の描写がぎっしりと詰め込まれています。

花咲くいろはの美術

出典:「TVシリーズ 花咲くいろは」公式サイト


地方都市ならではの美しい景色。背景美術は素朴ながらも、郷愁を誘うものとなっています。

まずはOPの映像を観てください。とりわけ緒花が螺旋階段を下るカット、緒花のうしろの窓から差し込む光の加減の描写は見事です。

旅館のお仕事

お仕事シリーズというだけあって職場となる旅館の舞台設定がしっかりしています。

厨房、宴会場、客室、浴場、ゴミ捨て場など、喜翆荘という舞台が詳細に作りこまれていることがわかります。

旅館やホテルに泊まるときは、ついこの作品のことを思いだしてしまいます。お客様から見ることのできない裏側では、どんなオペレーティングがなされているのか、そういうところがリアルで面白い。

ただ、第2弾の『SHIROBAKO』と比べると、旅館のひとつひとつの具体的な仕事がそれほど詳しく描かれるわけではないので、ちょっと物足りないかもしれません。(というよりも、SHIROBAKOがちょっとリアルすぎるのかも)

配膳の仕方、シーツの取替、ごみ捨ての仕方、庭の手入れ、廊下の掃除など、もう少し詳しい描写があっても良かったのかも知れないです。

ちなみに『花咲くいろは』に憧れて、実際に旅館で中居を始めた男性が、当時注目を集めました。

花いろに憧れ「仲居男子」 湯涌の旅館 : 石川 : ホッとニュース - 47NEWS

もうひとりの主人公

この作品のなかで、非常に大きな役割を持っているのが、主人公の祖母である、四十万 スイ。この作品のキーパーソンです。個人的に、この作品のもうひとりの主人公は、スイなのではないかと思っています。

四十万スイ

出典:「TVシリーズ 花咲くいろは」公式サイト

わたしが『花咲くいろは』のなかで一番好きなキャラクターです。スイは、喜翆荘の女将さんとして、作中では自分にも他人にも厳しいプライドの高い人物として描かれています。

彼女の過去が語られるシーンがいくつかあるのですが・・・。完璧超人に見えるスイもまたひとりの人間としてキャリアを積んできたという事実が胸に刺さります。

彼女がどんな気持ちで旅館を経営してきたのか。そういったことを考えながら見るとまた違う楽しみ方ができると思います。

花咲くいろはのまとめ

働いていると大変なこともあるけど、その分、楽しいこともある。働くことってそういうものですよね。

自分にできることはなんだろう。お互いに誤解しあったり、すれ違いだっていっぱいあるけど。

みんなが持っている悩みに、健気に向き合っていく普通の女子高校生たち。そんなお話です。観ているとなんだか元気をもらうことができます。

キャラクターがかわいいだけの作品ではありません。まさにNHKの連続テレビ小説。

ちなみに、この作品のなかに登場する「ぼんぼり祭り」というお祭りがあるのですが、実際にアニメ放送後から、モデルとなった石川県の湯涌温泉街で再現されています。アニメからの逆輸入です。

アニメーション作品が地域振興になった好例と言えるでしょう。このぼんぼり祭り、かなり成功していて、2017年で実に第7回目を数えます。毎年10月に開催されています。

yuwaku.gr.jp

SHIROBAKO

2014年10月から2015年3月まで放送されました。全24話。

シロバコとは映像業界で使われる白い箱に入ったビデオテープの事でありひとつの作品が完成した際に、製作者が最初に手にすることができる成果物である。イラストや写真等で華やかに作られている販売用パッケージと比べれば、白い箱に入っただけのテープは地味かもしれない。しかし、そこにはクリエイターたちの想いが詰まっている。

この物語は、5人の夢追う女の子中心に、シロバコの完成を目指し奮闘するアニメ業界にスポットを当て日々起こるトラブルや、クリエイティブな仕事ゆえに起こる葛藤や挫折、集団で作るからこそ起こる結束や衝突といったアニメ業界の日常を描いた群像劇作品である。

そして、5人が共に目指した夢への挑戦。その先に見出す希望へと続くサクセスストーリー。

そう、アニメの今がここにある・・・

ストーリー|TVアニメ「SHIROBAKO」公式サイトより引用

SHIROBAKOは、架空のアニメーション会社「武蔵野アニメ―ション」を舞台とした、アニメーション制作にスポットを当てた群像劇です。

主人公 宮森あおい

SIROBAKOの主人公は、宮森あおい(愛称:みゃーもり)という短大卒の女性。武蔵野アニメーションの制作進行として、奮闘するあおいの視点で物語は進んでいきます。田舎から上京してきた宮森あおいが、先輩や監督に翻弄されながら、新社会人として頑張る姿は単純に共感できる部分が多いと思います。

宮森あおい

出典:キャラクター|TVアニメ「SHIROBAKO」公式サイト

宮森あおいは、ちょっと繊細なところもありますが、基本的にいつでも明朗でパワフルな女性として描かれているので、観ているだけで元気をもらえます。

音響の現場に迷い込んだ宮森あおいが、アニメの怪獣に声をあてるシーンは多くの視聴者を爆笑の渦に飲み込みました。宮森あおいがせっせと働く健気さが、この作品の魅力のひとつと言えるでしょう。

たしかに登場人物はかわいいのですが、極端に萌えに走ったりすること無く、堅実にアニメ業界の現場を描いた大胆なストーリーは、作品としての完成度が非常に高く、多くの反響を呼びました。

詳細なお仕事描写

SHROBAKOの魅力として、まず第一に挙げられるのは、丁寧に描かれるアニメーション業界のリアルです。とにかく仕事内容の描写が詳しく描かれていて、企画会議、原画、動画、色彩、撮影、録音など、アニメ制作の各セクションの流れを主人公のあおいと一緒に追体験することができます。

アニメ制作の流れが自然にわかるような(第1話から専門用語が鬼のように飛び交いますが、なんとなく流れがわかるような構成になっている)コミカルで明るいストーリーとなっているので、難しい予備知識は一切いりません。

あくまで架空のアニメ制作現場ではありますが、現実のアニメ制作もこんな感じなんだろうなと思わせてくれるあたりが上手です。

その道のプロが作ったのだから、当たり前といえば当たり前ですが、お仕事シリーズ3作品のなかで、最も仕事の描写が濃いのは間違いなくSHIROBAKOです。

アニメーションの制作現場を社会科見学するような気分で楽しむことができると思います。ある種のドキュメンタリーのように見てもいいかもしれません。

「原画があがってこない」「作画監督がやる気になってくれない」「監督が後出しで設定を変更する」「シナリオが二転三転する」「重要なシーンを描けるアニメーターがいない」など、いかにもありそうなエピソードが各話に詰め込まれています。毎回なんらかのトラブルが起こるので、続きが気になってしまうんですね。

叱られるシーンや現場の空気が悪くなるシーンなど、たくさん出てきますが、あくまでマイルドな描き方なので、見ていてひやひやするけど嫌な気持ちにはならない作品といえるでしょう。

トラブルはリアルに。解決はマイルドに。

仕事との向き合い方

主人公のあおいが務める制作進行という役職は、文字通り作品制作の進行を管理する仕事です。

スケジュールの管理から、原画・素材などの受け渡し、打ち合わせの設定、人員の調整から外部スタッフとの折衝、そして雑用までをこなす必要があるとてもハードな仕事です。

そんなハードな現場で、予定通り進まないスケジュールに翻弄されるあおいの姿は、社会人なら共感できる部分がとても多いことでしょう。序盤から深夜労働のシーンですからね。

そしてSHIROBAKOの主人公は、宮森あおいだけではありません。作画、劇作家、CGクリエイター、声優という、それぞれの夢をもつ4人の女の子にもスポットが当てられます。それぞれが異なる事情をかかえながらも、社会人としてお互い励ましあいながら、日々の業務に取り組む姿は勇気をくれます。

とりわけ地方から上京してきたわたしのような人間は、まるで自分のことを見ているような気持ちになります。実家からの仕送りのシーンとか親からの電話とか、晩酌のシーンとか、リアルなんですよね・・・。

新社会人の5人がみんなで集まってお酒を飲むシーンは胸を打ちます。

登場する人物もひとりひとりそれぞれが信念を持っています。キャラクターが信念を持っているからこそ、ぶつかり合って、仕事がすすまない。そういう描写がこれでもかというほど詰め込まれているんです。

分業がしっかり描かれる

お仕事シリーズ第1弾の花咲くいろはでは、舞台が旅館だったので、仲居さん、厨房の料理人、清掃、フロント、女将など、しっかりと分業が描かれていました。SHIROBAKOでは、より専門的な業務内容が描かれているので、とても見ごたえがありますよ。

アニメーション制作の現場は、分業がはっきりしていて、それぞれの業務や責任も明確に区別されています。体系的に分けられた業務をたくさんの人間が受け持って、アニメーション制作は進んでいくのです。

たくさんの登場人物、それぞれの立場から見た仕事の様子が各エピソードでしっかり描かれるので、視聴者が感情移入しやすく、惹きつけられる構成になっているのです。

それぞれの仕事のやりがいや苦しみが丁寧に描かれているから、面白い。社会人なら共感できるポイントがたくさんあると思います。

序盤では、作画監督とCGアニメーターの仲違い(作品の派手なシーンに、手描きを採用するか、3DCGを採用するか)といったシーンが描かれますが、こういったエピソードは、SHIROBAKOの濃密な仕事描写の一例です。

ひと癖もふた癖もある登場人物たちと、その連絡調整の役目をしなければならない宮森あおいの苦労がこれでもかというほど伝わってきます。


「アニメはひとりでつくってるんじゃないんだよ。アニメ制作はチームワークなんだ」
「人のせいにしているようなヤツは辞めちまえ」

仕事って人間関係があまりにも大きなウェイトを占めてますよね。このあたりの描写がめちゃくちゃリアルなんですよね。

社会人として働くことってどういうことなんだろう。自分に向いた仕事ってなんだろう。そういう悩みを持っている方は、ぜひSHIROBAKOをご覧になってください。

夜はねむいし、上司はめんどくさいし、しんどいことがいっぱいあるけど、仕事にはやりがいもいっぱいある。そういうことを教えてくれる作品です。

作品としての完成度が高い

アマゾンのレビューなどを見ていただければわかりますが、非常に評価が高いんです。人間模様、キャリア観、アニメ業界、かわいい女の子、魅力的な脇役といった要素がとても上手に絡み合っているのです。

  • リアル過ぎない仕事現場。
  • キャラクター萌えに特化しすぎないキャラデザ。
  • ストーリーも引きが上手なので、どんどん続きが見たくなる。
  • 社会人の宮森あおいたちが健気に働く姿。
  • いい意味でクセになる人間臭い登場人物。

とても高い水準でまとまった作品です。老若男女、誰が見ても楽しめる間口の広い作品と言えますね。

働くことを間近に控えた大学生や、キャリアに悩む新社会人に観てもらいたい作品です。元気がもらえますから。

仕事終わりにおつまみとお酒を飲みながら観てほしい

これは個人的なSHIROBAKOの楽しみ方ですが、ぜひ仕事から帰ってきた後にお酒とおつまみを用意して、ご覧になってください。宮森あおいの仕事ぶりと自分の仕事ぶりとを比べてみると楽しいですヨ。

子供の頃に知った心が踊るようなわくわくする感情を今も覚えてるよ

迷いや不安はない期待に溢れてる何にだってなれそうな気がした

SHIROBAKO第1期オープニング『COLORFUL BOX』より引用

何にでもなれそうな気持ちになれる作品です。

サクラクエスト

お仕事シリーズ第3弾。テーマは町おこし。富山県の架空の自治体、間野山市を舞台に5人の女性が地域活性化に挑む作品です。2017年4月から9月に放送されました。

主人公、木春由乃(こはるよしの)は、田舎から上京し短大の卒業を間近に控えた、いわゆる普通の20歳の女の子。東京には何でもあって、きっと特別な何かになれるのではないかと夢みて、30社以上の面接を受けるも、未だに内定はない。銀行の残高は980円。

このままでは、田舎に帰って普通のおばさんになってしまう・・・と葛藤していたそんなある日、以前、一度だけ働いたことがある派遣事務所から、「地域の町おこしの一環で国王をやってほしい」との依頼がある。よくわからないが軽い気持ちで依頼先の間野山市に向かうことにした。一時的に日本中でブームになるも、バブル崩壊に合わせて今ではほとんど見ることの無くなったミニ独立国。間野山市は、今なおミニ独立国を続けている、廃れた残念観光地だった。そんなこんなで、由乃の"普通じゃない"お仕事生活がはじまった。

STORY|TVアニメ「サクラクエスト」公式より引用

国王と4人の仲間たち

主人公の小春由乃(国王)のまわりには、大臣として4人の女性が集まります。ガテン大臣、IT大臣、UMA大臣、とりもち大臣というように、4人の個性がそれぞれ異なっていて面白いです。

サクラクエスト

出典:TVアニメ「サクラクエスト」公式

バックボーンの異なる4人。数話ずつキャラクターの掘り下げが行われます。このあたりはSHIROBAKOと似た展開ですね。

そんな若い女性たちのアイデアで、ひなびた地方都市の間野山市を活性化させていくというお話です。

基本的には、ひとつのテーマにつき2話を使ってストーリーが展開していきます。後腐れを感じさせないスッキリとしたストーリー展開となっているので、爽やかな気持ちで最後まで安心して観られる作品に仕上がっています。

答えのないテーマ

サクラクエストがテーマとしているのは、町おこしという非常に難しいテーマです。現実でも町おこしの成功例はかなり限られていますよね。

このためサクラクエストの作中でも、町おこしは簡単には成功しません。明確な答えがないテーマだけに、作品のなかでも最後まで決定的な解決策が示されることはないのです。

  • 寂れた田舎に観光客を増やすにはどうしたらいいだろう
  • 田舎の良さってなんだろう
  • どうすればリピーターが増えるんだろう
  • みんなが納得する町おこしってなんだろう

そういう掴みどころのないテーマなので、もやもやする方もいるかもしれませんが・・・。答えのないテーマと必死に向き合い苦悩するキャラクターたちの奮闘が面白い!

リアルな田舎の描写

サクラクエストで印象的なのは、地方都市の現状をしっかりと描いている点です。

シャッター商店街、人里離れた集落、バス路線廃止、よくわからないゆるキャラ、B級グルメ、など扱うテーマはかなりリアル。(一部あり得ないような設定もありますが、そこはご愛嬌)

必至に考えた企画が市民にはあまり響かず不協和音を奏でたり、よそ者の国王がひんしゅくを買ってしまったり。

「そもそもほとんどの人はこの町を変えたいなんて思ってないんだよなあ」という印象的なセリフが作中に登場するのですが、地方都市の現状はまさにコレです。

わたしも田舎生まれなのでよくわかりますが、みんな自分の生活が守れればそれで良いという風潮が田舎にはあります。

サクラクエストで描かれる田舎出典:間野山観光協会

町おこしに必死になっているのは、限られた人間だけ・・・。サクラクエストではこういった現実的な描写が多く、登場する市民たちは自分たちで何かを変えようという意思がありません。

超人的な才能をもった若者たちが民衆たちを導いて地域を活性化させる・・・、そういう単純なストーリーではないのです。田舎としっかり向き合った社会派アニメですね。

国王の悩み

この作品のなかでキーワードとして度々登場するのが、よそ者、ばか者、若者という3つの単語。地方活性化の切り札といえるのが、この3種類の人間です。

とりわけ国王は、いわばIターンで1年間だけ間野山にやってきた人間なので縁もゆかりもない間野山に対してどのように関わっていけばいいのか悩むシーンが多く描かれています。よそ者の自分に何ができるのか。

「普通じゃない仕事も、それが毎日続けば普通になるし、普通の仕事だって、そこに刺激を見つけられれば普通じゃなくなるからね」

みんなが納得する町おこしとは何なのか。仕事との向き合い方を模索する国王が、すこしずつ答えを出していく展開はグッときます。そして、自分の生き方を見つけていく国王と4人の大臣たち。

具体的なお仕事描写はやや控えめ

これまでのシリーズでは温泉旅館、アニメーション会社という、ハコモノのなかでの立ち回りが描かれていましたが、サクラクエストでは、舞台が間野山市というひとつの地方自治体なので、スケールがかなり大きくなっています。

このため、細かな分業や専門職としての業務が描かれるわけではないので、濃密なお仕事描写はかなり少ないのが特徴です。仕事の役割分担や責任の所在もかなりふんわりとしたものになっていますので、そこが物足りないという意見もあります。

フィールドに出向いて、あれをやってみよう、これをやってみよう、と体当たりで事業に取り組んでいく様子は観ていて面白いですが、ややリアリティーに欠けるのも事実です。

脇役の存在

架空の町である間野山に暮らしている市民たちも、しっかりと描かれています。本屋さん、警察官、地元の老人、バス運転手、商店の主人など、1回限りの使い捨てキャラクターではなく、ひとりひとりが確固とした存在として、繰り返し繰り返し登場します。

なにより爺さん婆さんがとにかくたくさん出てくるのが特徴です。びっくりするくらい年寄りばっかりでてきます。しっかりと地方都市を描いている証拠ですね。

登場人物の8割くらいはシニア層です。というか若いキャラクターがほとんどいない。ここまでチャレンジングな作品はそうそうありません。

爺さん婆さんたちが動画共有サイトを使って、畑で取れた大根をうれしそうに紹介する様子を描いたアニメ作品がかつてあったでしょうか?

スタッフがキャラクターに愛を持っていることがよく分かる作品ですよね。最後まで見れば、間野山の人々にもきっと愛着がわくことでしょう。

なかでも、観光協会の丑松会長は、本作のキーパーソンです。騒々しいトラブルメーカーとして描かれる丑松会長ですが、彼の過去のエピソードはとても心温まるものとなっています。

誰よりも地元を愛している丑松会長。その人柄はとても魅力的。熱心な視聴者からはジジイの愛称で人気を博しました。

丑松会長

出典:CHARACTER|TVアニメ「サクラクエスト」公式

最終回の丑松会長のとあるシーンは、多くの視聴者が涙を流しました。丑松会長がもうひとりの主人公といっても過言ではありません。それくらい良いキャラをしてるんです。彼の心の動きに注目してみると、全25話がまた違ったふうに見えてきますよ。

5人の成長の物語・市民の成長の物語

サクラクエストは町おこしがテーマの作品ではありますが、全25話を通してみると5人のヒロインと間野山の市民の成長の物語だということがわかります。

テーマは確かに地味かもしれないです。万人に勧められるアニメ作品ではないかもしれません。派手なシーンも少ないですが、それでも、ぜひ全25話すべて見てください。そしてキャラクターに愛着をもった状態で最終話を観てください。

最終話のあまりにも美しいラストシーンは、涙なくしては観られません。きっと心地よい感動があなたを包むでしょう。

お仕事シリーズの魅力

  • 本当に自分のやりたいことってなんだろう。
  • 仕事は辛いけど楽しみもある。
  • いろんな人との出会いが思わぬ力になる。
  • 可愛い女の子。
  • 魅力的な脇役たち。
  • 丁寧なお仕事描写。

明日への活力を我々に与えてくれるのが、お仕事シリーズ。健気にがんばる女の子は、ついつい応援したくなってしまいますよね。この辺りは、NHKの連続テレビ小説にも通底する要素です。

働くことをテーマとしているので、職場見学や社会科見学のような楽しみ方もできますしね。そういう意味では、大人向けの社会派アニメシリーズと言えるでしょう。

日々の労働で消耗している社会人のみなさん、ただのアニメだと思わず、ぜひご覧になってみてください。自分の働き方を考える良いきっかけになるかもしれませんよ。


  1. 旅館で働く高校生たちの青春アニメ『花咲くいろは』
  2. 大人の鑑賞にも耐えうる高水準のお仕事アニメ『SHIROBAKO』
  3. ちょっと地味だけど噛めば噛むほど味が出る田舎アニメ『サクラクエスト』


どの作品もそれぞれ違った面白さを持っています。さあ、あなたはどの作品から観ていきますか?