2018年1月『ゆるキャン△』というアニメーション作品の放送が開始された。
女の子がゆるくキャンプをするという、ほのぼのとしたアニメである。リアルなアウトドア描写、美しい風景美術、かわいらしいキャラクター、などなど制作陣の徹底的なこだわりが詰まったすてきな作品ということもあって、爆発的な反響を呼んでいる。
主要人物たちの全員が女子高生というポップな設定ではあるのだが、類似作品にありがちな「くどさ」がほとんどない。仲良しのキャラクターたちが、最初からみんなでワイワイキャンプに行くといったシナリオではないのも特筆すべきポイントである。LINEに似たSNSを使って、バーチャルなコミュニケーションに興じたりしながら、適切な距離感を探り合って、ちょっとずつ仲良くなっていく様子が妙にリアルだ。
この『ゆるキャン△』のすごいところは、たくさんの視聴者を現実のキャンプ場に誘導しているという点にある。ためしにTwitterなどで「ゆるキャン△」と検索してみるとわかるのだが、この作品に影響を受けて、キャンプに初挑戦したと思われるユーザーが相当数ヒットする。凄まじい影響力が見て取れる。
これはモデルとなった景色を実際に探訪するいわゆる「聖地巡礼」のさらに上を行く事象である。わたしの高校時代、アニメ『けいおん』を観て、上等なギターを買った友人がいるが、もはやそういうレベルである。確実に「ゆるキャン△・ムーブメント」が来ている。
しからば、もはや乗るしかないこのビッグウェーブ。さっそく、われわれ調査班もキャンプ用品を買い込み、山梨県は本栖湖に足を運んだ――
実際に持って行ったキャンプ用品も紹介しているので、『ゆるキャン△』を観て、ちょっとキャンプをやってみたくなった人の参考になれば幸いだ。だいたい3万円ほどでキャンプ用品一式をそろえられたので、目安にしてほしい。
本栖湖へ向かう
『ゆるキャン△』の第1話において、志摩リンと各務原なでしこが出会ったのが、山梨県の本栖湖にある浩庵キャンプ場である。
キャンプ用品はかさばるので、自動車で行くことを強くおすすめする。レンタカーを借りるのもいいだろう。最寄り駅のJR河口湖駅からバスも出ているが、本数が非常に少ないため、かなりしんどい。
今回は、河口湖にあるスーパーマーケット・オギノで食料品を調達してから本栖湖に向かった。ここが最寄りの大型スーパーだが、それでも本栖湖まで25kmもの距離がある。
本栖湖に到着
本栖湖が見えてくる。遠くから眺める湖畔には、すでにテントが立ち並んでいる。
青々とした湖面、透き通るような空がすでに美しい。
浩庵キャンプ場の駐車場からは、見事な富士山を眺めることができる。
第1話で各務原なでしこが眠っていた公衆トイレもあった。イヌがいた。
キャンプサイトの利用などの各種手続きは、こちらの「浩庵」で行うことになる。
民宿やレストランも兼ねている。『ゆるキャン△』第1話で登場した建物だ。
浩庵キャンプ場は、テントを持ち込めば、ひとり600円で1泊できる。このほかに、駐車場利用料が1000円。テント設営料が1000円。合計2600円もあれば、ソロキャンプが楽しめる。
当たり前だが、ここで手続きを済ませないと、キャンプ場に入ることはできない。無断で入るのはやめよう。
浩庵の店内では、たきぎや木炭といった燃料、カップラーメン、お菓子、アイスクリームなどの軽食が販売されているので、いざというときも安心だ。ただし、テントなどのレンタルは行っていないので注意しよう。
キャンプサイトは大きく分けて二種類あり、林間のキャンプサイトと湖畔のキャンプサイトがある。今回は、本栖湖の浜辺(湖畔キャンプサイト)にテントを設営することにした。
出典:浩庵キャンプ場・キャビン|浩庵ー本栖湖での宿泊・キャンプ・アウトドアスポーツなら浩庵ー
トイレ・炊事場がしっかり用意されているので、水道の心配はない。
湖畔は急な斜面になっている。できるだけ平坦な場所を選ぶと、テントを設営しやすくて良いと思う。
たくさんの人でにぎわっているので、湖畔で車を運転するときは注意しよう。
レッツ・キャンプ
今回は、Amazonで購入した『North Eagle(ノースイーグル) イーグルミニドーム200II 』を持ってきた。実売価格はわずか5000円ほど。安価なため、品質はそれなりかもしれないが、とりあえずこれでキャンプができる。
まずはグランドシートを敷く
テントを立ち上げる前に、グランドシートを地面に敷いておこう。テントを地面に直接設置してしまうと、テントが汚れてしまう。地面からの冷気・湿気を防いだり、テントへの浸水を防ぐ効果もある。テントより面積が小さいものを選ぶのがポイントだ。
湖にほど近い場所にテントを設営することにした。
Amazonで購入した『North Eagle(ノースイーグル) シート テントグランドシート200 NE1208』を地面に敷く。お値段は1600円。
グランドシートは安いレジャーシートでも代用できる。風で飛ばされないように気をつけよう。
テントを設置する
このノースイーグルのテントは、設営が簡単なので、わたしのような初心者でも簡単に設営できた。
グランドシートの上に、テント機材を置いて、ウキウキしながら組み立てていく。
この状態だと、なんだかよくわからないが、これがテントになるのだ。
まずは骨組みとなるポールをクロスさせ、4隅の金具に接続する。その後、ポールをアタッチメントに接続していく・・・。と、文章で説明してもさっぱりだと思うので、説明画像をご覧いただきたい。
ざっくりと言うと、骨組みを作ってインナーテント(居住スペース)を立ち上げて、最後にフライシート(雨風を防ぐ外張り)をかぶせ、ペグを地面に打ち込んで固定するという流れだ。
黄色いのがインナーテント、緑色のがフライシート。
テントらしい姿になった。
最後にペグを地面に打ち込んで、しっかりと固定する。
そこらへんの石でペグを地面に打ち込むことができる。本来なら専用のハンマーが望ましいが、一応、石でも代用できる。ここでしっかりと打ち込まないと、強風でテントが飛ばされる恐れがあるので気をつけよう。風が強いときは、ペグを打ちつつ設営しよう。
こうしてついにテントが完成した。素人でも15分もあれば簡単に設営できるので、お手軽だ。
5000円の居住スペースとしては十分な出来栄えだと思う。あまりお金をかけずに、キャンプを始めたい人におすすめだ。このテントの場合、大人3人が横になって眠ることができる。
ただし、3人も横になると、それだけでギュウギュウになってしまい、荷物を置くスペースがなくなってしまう。2人くらいで使うのがちょうど良いと思う。
秘密基地みたいで面白い。ワクワクがとまらない。
椅子やテーブルを用意する
続いて、食卓の用意を行う。
左がコンロ。右がローテーブル。
今回は、椅子、テーブル、BBQコンロ、調理用バーナーなどを持ってきた。これらはすべてAmazonでそろえることができる。
すべてコンパクトに折りたためるので、携帯性が優れているのがウリだ。サイズはそれほど大きくないのだが、ソロキャンプなら十分だと思う。
なんとなくサマになってきたぞ。ローテーブルは志摩リンが使っていたものと同じ製品だと思う。
火をつける
キャンプといえば、BBQ。アウトドアといえば、BBQ。大自然のなかにやって来ると、人は肉を焼きたくなるものだ。原始的な本能なのだろうか。
松ぼっくりは自然の優秀な着火剤
『ゆるキャン△』の第1話で、志摩リンが、松ぼっくりを燃やしていたので、まねをして燃やしてみる。たぶん、コンロに入れて燃やすものではないと思うが、まあいい。
近くの林の中に松ぼっくりが大量に落ちていたので、かき集めてきた。たきぎ(木の枝)もそこらへんにいっぱい落ちていた。
アツイ!
松ぼっくりが勢いよく燃えていく。松ぼっくりはマッチ1本で火がつく自然の優秀な着火剤なのだ。
大自然をバックに肉を焼く
スーパーで買ってきたサーロインステーキをコンロで焼いてみることに。
牛肉はことのほかやわらかく、これまで経験したことのないような感動が口のなかに広がった。うますぎる。十万石まんじゅうもびっくりのおいしさである。
しかし、この感動は、牛肉によるものだけではない。
眼前に広がる本栖湖と富士山。この雄大な景色のおかげで、食事の感動もひとしおなのである。
日本人にとってありきたりなランドマークであるが、やはり実際に目にすると、その威容は圧巻の一言である。富士山が古来より信仰を集めてきた理由もよくわかる。
外に出て、ご飯を食べる。ただそれだけなのに、なぜこんなにおいしいのだろうか。こんなに寒いのに、私のこころと胃袋はホカホカと温かい。正直、キャンプに対して、ちょっと抵抗感を感じていたのだが、ここに来て満足度が一気に跳ね上がった。
『ゆるキャン△』を観た視聴者が、キャンプにハマるのもよくわかる。
ピーマンやカマンベールチーズを焼くのもいいぞ。
カマンベールチーズをモチのように焼いてみる。焦げ目がいい感じになった。
玉ねぎもそのまま丸焼きにした。ちょっとぐらいの汚れものならば残さずに全部食べてやる。
携帯コンロでアヒージョを作る
コッヘルに焼いた鶏肉とキノコをぶち込み、オリーブオイルを注いで、アヒージョをつくる。にんにくの香ばしいかおりがたまらない。自然のなかで食べるものは何でもおいしく感じる。
携帯コンロで一気に熱する。パンをつけて食べると非常においしい。
コンロがあると、お湯も沸かせるので便利だ。燃料のガスとセットでAmazonで購入した。このコンロは、志摩リンが使っていたものと同じモデルである。
こうしてのんびりと時間が流れていった。
すごい数のキャンパーさんがいた。ほとんどの人が車で来ていた。
テントのなかへ
暗くなってきたので、テントのなかへ。いよいよキャンプらしくなってきた。
5000円のテントではあるが、しっかりと風を防ぐことができるので、なかなか快適だ。スイートホームならぬスイートテントである。
天幕にLEDランタンをつり下げる。こちらもAmazonで購入した。充電器にもなり、Bluetooth対応スピーカーとしても使うことができる。3500円ほどで買えるので、おすすめ。
周囲の迷惑にならない範囲で、BGMを流すのもいいと思う。
カレーめんを食べてみた
テントの中ではカレーめんを食べることにした。
『ゆるキャン△』第1話で、各務原なでしこが食べていたカレーめんをどうしても再現したかったのだ。
コンロでお湯をわかせば、たちどころにカレーめんを食べることができるぞ。
(テント内でガスを使う場合は、通気口を開けて換気。また、長時間の使用は控えましょう)
う、うまい。人生で食べてきたカレーめんのなかで最もうまい。こんなにうまいカップヌードルは他にない。
テントをゆらす風。ほとばしるカレーめんのスパイス。うまいものを食べるのは正義なのだ。
カレーめん♪ カレーめん♪
ほわぁ〜はぁ〜・・・。
はい。
誤算:寒すぎて眠れない
夜は星空観測でもしようかと思っていたのだが、曇っていたので、断念。疲れていたこともあって、さっそくシュラフで眠ることにした。例に漏れず、Amazonで購入したシュラフ。さあ、これでゆっくりと眠ろう。
耐用温度は10度以上。
これにくるまれば、ぐっすりと眠れると思っていたのだが、完全に無理でした。全く歯が立たない、というのが正直なところだ。
というのも、夜のキャンプ場はめちゃくちゃ冷えるのだ。とりわけ本栖湖は標高が高いため、深夜から明け方にかけては本当に寒い。
午前0時を過ぎたあたりから、テントの床部分が絶望的に冷たくなってくる。地面から伝わる冷気が体の熱を奪っていく。こうなると、もはやシュラフにくるまっていても何の意味もない。凄まじい寒さのため、どうしても目が覚める。
シュラフの下にはマットを敷くのが常識だが、今回、ケチって買わなかった。
ああ、マットを買ってくれば良かったなあ・・・。後悔は先に立たず。寒さにのたうち回りながら、浩庵キャンプ場の夜は更けていった。
湖畔に打ち寄せる波の音を聞きながら、わたしは浅い眠りについた。南無。
キャンプを終えたらチェックアウト
おはようございます。寝不足のまま迎える湖の朝は美しいか、醜いか。富士山は隠れていたが、太陽が顔を出した。
浩庵キャンプ場のチェックアウトは午前10時。遅れないように余裕を持って片付け作業を始めよう。
浩庵へ
チェックアウトも浩庵で行う。店内には浩庵のご主人が撮影したすてきな写真が販売されているので、要チェックだ。
店内には『ゆるキャン△』ファンのための、交換ノートが用意されており、愛のこもったコメントやイラストが並んでいた。近畿圏から来たという人の書き込みも目立つ。
さらに、ゆるキャン△ポーチ、ゆるキャン△ほうとう、すごい品ぞろえである。これは貴重だ。※写真は許可を得て撮影しています。
店内には親子連れがいて、小さな子どもがが「パパー、『ゆるキャン△』の絵が飾ってあるよー」とうれしそうにしていたのが、とても微笑ましかった。幅広い年代から愛されていることがわかる。きっとお父さんと一緒に観ているのだろう。
『ゆるキャン△』効果で客足は倍増
浩庵の店員さんに『ゆるキャン△』の効果はどれくらいあったのか聞いてみたところ、1月に放送が始まって以来、通常の倍以上の数のお客さんが来るようになったという。この日だけで100組をこえるキャンパーが来ていたそうだ。うーん、すごい。
創作物やメディアの影響はすごいのだな、とあらためて感じた。ちなみに浩庵の店員さんもみんな『ゆるキャン△』が大好きらしい。毎回視聴しているそうだ。
ちなみに浩庵の食堂は、日本一富士山が綺麗にみえる食事処なのだ。ガラス窓の向こう側に、富士山がくっきりと綺麗に見えた。
ここでは自家製みそを使ったほうとうが食べられる。写真はミニわかさぎ丼とのセット。
おわりに
今回、実際に本栖湖に行ってキャンプをしたわけだが、とても楽しかった。具体的に、今回のキャンプで印象に残っている点はつぎのとおり。
- 時間の流れがゆっくりに感じる
- 不便だからこそ感動も大きい
- 自然の雄大さはすごい
キャンプをするなかで強く感じたのが、時間の流れがゆっくりであるということだ。日常の喧騒を離れたキャンプ場では、時計の針は驚くほどノロマになる。
本栖湖では、みんながそれぞれ思い思いのスタイルで、のんびりとキャンプを楽しんでいた。時計も締切もタスクもTodoリストも厳格なルールもない。現代社会という呪縛から解き放たれて、ぐぐっと羽を伸ばすことができる。
火をつけるのも一苦労だし、夜になれば辺りは真っ暗になる。コンセントもないし、テレビもエアコンもない。でも、たまにはそんな不便な思いをしてみるのもいいんじゃないだろうか。
大手キャンプ用品メーカー「スノーピーク」の社長・山井氏は、「キャンプは人間性の回復」というフレーズを掲げているが、まさにそのとおりだと思う。なにかとストレスがたまりがちな現代人の暮らしに、キャンプは良い刺激を与えてくれる。
キャンプに行けば、普段の生活を相対化して見ることができる。当たり前の日常を客観的に見つめ直せば、新しい知見を得ることだってできる。
不便な思いをするということは、実はとってもぜいたくなことなのかもしれない。
普段の慌ただしい生活に押しつぶされそうな人は、ちょっとだけ無理をして、キャンプに行ってみるといい。
いつもの生活 やることがたくさんで
少し休んでも 大丈夫だよ
『ゆるキャン△』エンディングテーマ『ふゆびより』の一節
『ゆるキャン△』はいいぞ
今ならAmazonプライム・ビデオで全話見放題である。Amazonのレビューもかなり高い。
原作は現在6巻まで発売中である。最新刊は3月12日に発売されたばかりだ。
日本においては、1990年代に空前のキャンプブームが到来した。現在の日本におけるキャンプ人口は800万人ほどと推計されている。キャンプはとにかく実行するまでのハードルが高いが、リピーターが多い市場でもある。
一度経験するとハマってしまう人が多いのがキャンプの世界。
『ゆるキャン△』は、そんな魅惑のキャンプ世界を、具体的なノウハウを交えながら、わたしたちにゆるーく教えてくれるすてきな作品だった。
毎日同じことの繰り返しで、日常に張り合いがない。そんなときは、ふらっとキャンプに出かけてはいかがだろうか? きっと新しい世界が見えてくる。
ということで、最後にこれだけは言わせてほしい。『ゆるキャン△』はいいぞ。