ハリー・ポッターのルーピン先生から見える差別【エイズと狼人間】

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ハリーポッターシリーズの第3巻『アズカバンの囚人』に、リーマス・ルーピンというキャラクターが登場しますよね。第3巻で初登場し、最終章まで活躍するシリーズのなかでも人気のあるキャラクターなのですが・・・。

原作者のJ・K・ローリングは、このルーピンというキャラクターにちょっと特別な思いを込めていたことをご存知ですか。

リーマス・ルーピン

出典:金曜ロードShowツイッター

今回はルーピン先生に隠された秘密について書いていきたいと思います。ダンディなルーピン先生には意外なメタファーが隠されていたのです。

有能な教師として

ルーピンは、第3巻で『闇の魔術に対する防衛術』の教授として初登場しました。

第2巻では『闇の魔術に対する防衛術』の教授はギルデロイ・ロックハートでしたが、秘密の部屋の一件で失脚(実は無能だったことがばれた、呪文が逆噴射して記憶喪失になった)してしまい、その後任として、ルーピンはホグワーツにやって来ることになったのです。

落ち着いたナイスミドルといった感じ、それでいて頭は白髪まじりで、ボロボロのマント姿からは、彼は苦労人であることがうかがえます。

ディメンターという恐ろしい存在に悩むハリーに対して、『守護霊の呪文(エクスペクトパトローナム)』を粘り強く指導し、(結果的に)習得させるなど、非常に優れた教師として描かれています。
※『守護霊の呪文』は成人した魔法使いでも、習得が難しい部類の呪文とされています。ハリーも相当苦労しました。

『闇の魔術に対する防衛術』という科目の担当教師は、シリーズを通してロクでもない人物が多く、まともな授業が行われていませんでした。(第1巻のクィレル、第2巻のロックハート、第5巻ではドローレス・アンブリッジが担当)

一方、ルーピンに関しては生徒からの人気も高く、その授業はとても面白いということで、今までで最高の『闇の魔術に対する防衛術』の教師という評価を得ました。

そんな素晴らしい人格者として描かれるルーピンですが、彼にはひとつだけ、あまりにも大きな悩みがありました。

狼が出る森

それは自分が狼人間であるということです。

狼人間

ルーピンは幼い頃、狼人間に噛まれてしまったことで、自分自身も狼人間になってしまいました。(※満月を見ると狼に変身してしまいます。これは病気のようなものだと考えてください。脱狼薬という薬を飲むことで症状を緩和できる)

狼人間は、魔法界では徹底的に忌避される存在として描かれています。そのことは『アズカバンの囚人』でのロンやハーマイオニーの接し方からもよくわかります。

「ハリー、信じちゃダメ。先生はブラックがホグワーツに侵入する手助けをしたの。それにあなたの命も狙っている―だって狼男なのよ!」

ルーピンが心配そうに歩み寄ると、ロンはあえぐように言った。「どけ、狼男!」


ふだんは合理的な思考力をもった優等生であるハーマイオニーでさえ、「狼男だから」という理由で、何の戸惑いもなくルーピンを非難しています。

とても聡明で、普段から差別や偏見に惑わされないように努めている優等生のハーマイオニーでもこういった態度をとってしまうのですから、いかに狼人間が差別されているかがよくわかりますよね。

ロンにいたっては「どけ、狼男」ですから、もはや完全に汚いモノに接するかのような物言いです。

今までは素晴らしい先生として接してきたのに、狼人間であることがわかった途端にこの扱いです。手のひら返しもいいところですよね。

差別されてきた狼人間

狼人間に対する風当たりが強い魔法界で、幼少のころから無意識の差別に悩まされてきたルーピンの人生は想像を絶するものでしょう。

狼人間となってしまった魔法使いは、

  • 他人と親しい関係を築けない
  • 友人がつくれない
  • まともに就職できない


など、相当な苦労があることが語られます。

その結果、人を恨むようになり、さらに狼人間を増やしてしまうなど、負の連鎖があるようです。

第5巻『不死鳥の騎士団』では、『反人狼法』という法律が登場し、狼人間の就職が極めて難しくなるなど、とにかく魔法界では忌み嫌われる存在が狼人間なのです。

裏社会
もともとルーピンがホグワーツの教授になれたのも、ダンブルドアの恩情のおかげでした。彼の身なりがボロボロなのは、自分が狼人間であるためにまともな社会的生活ができず、孤独な貧困状態にあるからです。

そして普段からどこか暗い影を落としているのは、狼人間である自分自身に対して否定的な考えを持っているからです。

一応、物語の終盤ではルーピンに対して、狼人間として史上初の勲章が与えられますので、救いはあります。結婚もしますし、子どもも生まれます。


ルーピンの場合は最終的に救われましたが・・・、これって物語のなかだけの問題ではないんですよね。

病気にまつわる差別問題は決して魔法界だけの問題ではありません。

病気のせいで、いわれのない偏見を持たれている人って、現実世界にもたくさんいると思いませんか?

ルーピンはエイズ患者のメタファーだった

狼人間という病気、そして偏見に苦しむルーピンについて、J・K・ローリングは、次のように語っています。

ルーピンの「狼つき」(狼人間であること)という病は、HIVやAIDSのような、偏見を伴う病のメタファーでした。血そのものがタブー視されるせいか、血液を介して伝染する病には、あらゆる迷信がつきまとうように思えます。ヒステリーや偏見にとらわれやすいのは、魔法界もマグルの世界と変わりません。ルーピンという登場人物は、そういった態度について考察するチャンスを私に与えてくれたのです。

ポッターモアより引用

欲望のままに人を噛み続けその被害が広がっていった、「狼つき」は意図的に感染させることができる、感染した人間は大きな精神的苦痛を負う、そしてなにより、狼つきの感染者は徹底的に差別される・・・。

確かに、1980年代に流行したエイズの一大潮流を思わせます。

エイズは進行を遅らせる薬ができているので、もはや死に至る病ではなくなりつつあります。それでも日本ではまだHIVホルダーが増えている状況にあります。いわれのない偏見、いわれのない差別・・・まだまだ根深い問題ですよね。

偏見から開放されよう
普通に生活している分には、ヒトからヒトへHIVが感染することはまずありません。ちょうどルーピンが脱狼薬を飲んで、狼つきの症状を抑えていたように。

エイズは制御できる病気となりましたが、いまでも偏見は残っています。エイズだけではありません。疾病に対する無理解は、得てして偏見を助長するものです。

恐ろしく思える疾病に対しては、無意識のうちに、「怖い・不浄である」といった感情を持ってしまうのです。ハーマイオニーでさえ、そうでした。

ハリー・ポッターのルーピン先生という存在は、現代を生きる我々にいろいろなことを教えてくれます。そういったことをちょっとだけ意識してみると、ハリー・ポッターシリーズの見方がちょっと変わってくるかもしれませんね。

今回は、ルーピン先生のお話でした。それでは、みなさま、エクスペクト・パトローナム!

【余談】ルーピンの名前の由来

リーマス・ルーピンという名前は英語のつづりだと、Remus Lupinとなります。欧米の人ならなんとなく意味がわかるようになっているのですが、以下の通り。

  • Remusとはローマ建国神話の双子のひとり、レムスが由来です。双子は狼に育てられたという伝説があります。
  • Lupinはラテン語で狼という意味の単語「lupus(ルーパス)」が由来です。